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900円台の腕時計と、ハスキーボイス [Collection]

仕事ではシチズンの電波時計、 
オフはカシオのアナログ時計を使用。 
数年その形を続けてきた。 

このカシオは900円台でネット通販で購入。
20年近く前に仕事で知り合った、 
同じ歳の御仁と5年前に飲みに行ったとき、 
彼が身につけていたもの。 

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彼は名の知れた大企業の幹部なのだが 
オンビジネスの場でも  
この900円台の時計をしていた。 
僕は気軽に気安く訊いたのだ。 
「珍しい時計してますね」 

日頃から無口な彼は少し考えて、   
ポツリと呟いた。 
「これ、千円しないんです……。 
小さくて、薄くて、軽い……。 
これで十分なんですっ……。」 
絞り出すようなハスキーな声で、 
そう教えてくれた。 

その瞬間だった。 
僕の中を何かが走り抜けた。 

僕の仕事用の時計は 
海外ブランドではなく、 
ごく普通の太陽電池仕様、 
実利に適い、高級感もあって、 
もう17年使い続けている。 
当時はそれなりにとんがっていた。 

片や、オフタイムは 
それまでは何年もG-Shock。 
数台買い替えている。 

要は腕時計に求めるのは、 
機能性はもとより逞しさ、 
そして少しばかりのセンス。 
カッコつけたい、のもある。 

それはそういう生き方を 
理想としてきたのだ。 
正確で賢くて、タフな男、 
ハイセンスなビジネスパーソン。 

でも彼のハスキーボイスは 
僕の渇いた心を潤すのに十分だった。 
なにをそんなにリキんでるの? 
もっと肩の力を抜けよと。 

その翌朝、僕はAmazonで  
同じカシオの900円台を注文。 
それ以来、僕の休日の相棒に。 

ところが、この2月のこと。 
昨年からのおウチ時間が増え、 
在宅勤務が長くなり、 
日常の風景を、気分を、
変えたくなった。 

そして、またぞろ 
デジタル表示のG-Shockを購入。 
僕の左手の景色は変わった。 

でも4月に入り、何処か落ち着かない。 
左腕にしたためたニュースフェースが 
いっこうに馴染んでこない。 

そのモヤモヤの理由がわからないまま、 
僕は900円台のあのカシオ時計に 
殆ど無意識に近い感覚で、戻していた。 

すると、どうだろう。お察しのとおり、 
すっきり、しっくり、何故かびっくり、 
何処か気分爽快。 

僕は同じ歳の、あの無口な彼の 
うつむき加減に話す横顔が浮かんだ。 
「これ、千円しないんです。 
小さくて、薄くて、軽い。 
これで十分なんです」 
ハスキーボイスがリアルに蘇った。 

お互い、30 年以上、会社員として、
薄氷を踏むような覚悟で 
幾多もの壁を超え、 
ほんの一瞬の小さな幸せを模索してきた。 
そんな……サラリーマン・センチメンタル。 

そうなんだ。もうそういう歳なのだ。 
カッコつけても無理があり、 
背伸びをしても底が知れ(浅く) 
見栄を張っても甲斐がない。 

 装飾は疲れる。  
シンプルが一番、楽なのだ。 

我は我なり。 
澄んだ風の中、上を向いて飄々と坦々、 
自分の人生を行く。 

彼とはもう一年半、会えていない。 
思わず声に出し、同志に捧ぐ「ありがとう」。 
何処かハスキーになった。 


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